猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話をかいた

 
 朝。扉が開かれる。部屋は帆船の沈む海底のように静かで、傾しいだ光の中を彼女は泳ぐようにやってくる。彼女の問いかけに、私は答える。世界で一番美しいのはお妃さまです、と。嘘などついていない。私は彼女の専門家であり幾許なりと世界平和にも貢献してる、って自負もある。
 
 
 
 

こんな話かいた

 むかし近所に、白い煙突が立っていた。煙突は高い壁に囲まれ、先端は少し尖っていた。煙突は真新しく、煙なんか出さなかった。ただ青空に向かって白く伸びていた。ぼくは子供で。何の工場だろう、って疑問も抱いてはいなかった。

 そんな夏の夕暮れ。サイレンが鳴り響き、二階の窓からぼくは見た。地響きがして轟音がなり爆煙と共に、煙突が飛び立つのを。白煙の柱を築くようにして煙突は、黄昏の空に昇っていった。

 西の空に僅かに残っていた紅が消えると群青色の静寂で。高い壁はひたすらに暗かった。何もかも嘘のようだったけど。星が瞬くばかりで、見慣れた煙突のシルエットはもうないのだった。
 
 
 
  
 
 

こんな話かいた

 約束事とてない日曜日。っていうか約束があることなど殆どないのだが。熱いコーヒーを飲みながら考えた。

「学校で教えるべきことをひとつあげるとすれば、なんですか?」

 いろいろな答えがあるだろう。選挙制度っていうひと。討論の仕方っていうひと。わが国の税制、所得税申告書の書き方ってひと。工場および土木建築現場における「安全第一」の歴史ってひと。読み書き算盤だけで十分であり教えるべきことは極力、減らすべきっていうひと。ぼくが感じのいい有能なインタビュアなら、十人十色の答えが聞けるだろう。この問にはなんていうか、未来がある。
 
 それに親切かもしれない。だって質問などしなくても率先して語ってくださる方も多い。この質問は表に出たがっている答えに手をさしのべる。

 学校を卒業した方はみな、学校についてひとつの意見を持ってしまうものなのかも。振りおろしたツルハシの先には、学校卒業者鉱脈がひろがっており。つまり需要がある!

 質問するなら朝がいいな。朝の「学校で教えるべきこと」は、飛び跳ねる虹鱒のごとく特別の輝きを放つという。渓流めいたホテルの階段を横目にぼくはエスプレッソを一口のみ、それから釣り鉤を投げる。
  
「誰しも一生のうちにいち度は、学校で教えるべきことを数えるものなのです。短い言葉では伝えきれない、学校で教えるべきことを書き残してみませんか?」
 
 
 
 
 
 
 

こんな話をかいた

 硝子コップにも似た部屋の中でも大気は流れる。大気は書物に似て、読まれるためにある。流れ淀む空気を論じる空気論者は部屋全体、コップ世界全部を眺め論をすすめる。空気論者は部屋全体主義者でもあるのだ。
 
 しばしば解釈は分かれ、空気論者どうしの仲は悪い。彼らはお互いを牽制しつつ回る。彼らの回転の影響を大気も受ける。ぐるぐる。巻き込まれることが、空気論にのることだ。……「願わくば、竜巻よ。東の魔女の上に、家を落とせ」……
 
 
 
 
   

こんな話かいた

 シュールとは学校に通ってる頃に出会った。黒髪の少年は考えていた。ぼくには、どんな意味があるのだろう。鏡の前で前髪をいじりつつ彼はいった。……「なんだか分からないけど、かっこいい感じ?」……

 あるときシュールは美術教師に尋ねてみた。「シュールってなんですか?」 
 ……はあ?……という顔が生じた。教師はまず、こめかみを揉んだ。そうやって考えるふりをして、まだ立ち去らないシュールを見ると少し落胆し、椅子から立った。教師は準備室の本棚のガラス戸を開き、そこから一冊の美術書を手にとり、シュールに渡してこういった。
「索引をみて。ここからシュールって項目を拾って、いろいろ読んだりするといいだろう、他の本も紹介してあるから参照、うん」

 シュールとしては直接、答えてもらいたかった。シュールとは、これこれこういう意味ですって。本をポンと渡し……はい、あとは自分で調べて……っていうのは、少し不親切な感じがした。

 けれど「シュール」の意味なら辞書にも載っていたのだった。ひいて読めだ。ひいて読んで……???……ってなって。もやもやも晴れなかったから、こうなった訳だが。

 シュールが登場するページを眺めながら、シュールは思った。……なんでひとはシュール、シュール、いうのだろう。……はっ。……秘密の言葉か?……ひとが「これはシュールだ」という場面を、シュールはたくさん読んだ。
 
 
 
 
 

こんな話をかいた

 詩集

 古本屋に立ち寄って一冊を手にとった。軽い装丁の詩集。知らない方がよんだ詩を、読むのが好きなのだ。
 幸運なことに?……その詩集は感じ良かった。なんとなくだが詩人さんが住む部屋の広がりのようなものが感じられた。間取りとかは分からないけど。机があって、テーブルがあって、花瓶があって、カーテンが揺れていて、窓の外には星空がひろがっていて、土星が異様に近い。ちょっと、いい感じ。部屋を出ればきっと、私の知らない通りに出るだろう。
 
 あとがきを読むと卒業の記念に、と書いてあった。へえ、と思いつつ。奥付を見ると、印刷所の住所も書いてあった。そして思った。この印刷所は知ってるかもしれない。っていうか、うちの近所なのだった。だんだんイヤな予感がしてきた。
 
 ってことは、ここにある卒業とは地元の※※※大学のことだな、って推察された。思うに詩人さんはこの詩集を少部数印刷して、親しい方に手渡したのだろう。受け取った方のひとりが、どうした経緯かは分からないけど、この古本屋さんに持ってきた。これらはぜんぶ、ご近所で起きたことだ。本の発行日から日付も分かる。一年前。
 
 われにかえり、まわりを見た。イヤホンをつけた人が、黄色の本を読んでいた。けれどこの本を書いた詩人さんが、そこにいても何の不思議もないのだ。詩集を棚に戻し店を出た。私が暮らす街の、いつもの通りに雨が降っていた。
 
 
 
 

こんな話をかいた

「懐かしき街に溢れるゾンビかな」
 帰郷してゾンビたちの群れを見た。
 春のはじめ、わが街の住人は高台に移る。地下からゾンビが沸いてでるからだ。街はゾンビで溢れ、いっぱいになる。ゾンビ達は通りで、ウーウーと唸り、彼らなりのやり方で、春を祝う。互いのハラワタを抉りあいっこし始めるのだ。
 けれど、それも一時のこと。長雨の季節がきて。雨がゾンビを溶かし海に流す。すると、また人々は街にもどる。排水口の掃除をするためだ。
 
 
「缶を投げ走り駆け去り山笑う」
 森でゾンビ達に囲まれかけた。ゾンビはのろまだが、執拗な追跡者だ。はんぶん開けた缶詰を投げ、ゾンビたちの注意をそらした。サバ缶がゾンビの好物で助かった。
 
 
「百年をこえて歩むか山ゾンビ」
 山で、山のようなゾンビを見た。
 ゾンビはゾンビも食べる。ゾンビを食べたゾンビは大きくなり、さらに別のゾンビを食べる。ゾンビはこうして巨大となり、ついに大地が重みに耐えられなくなったとき。巨人ゾンビは地下へと沈みこむ。これが地上にゾンビが溢れない理由である、と伝えられている。
 
 
「屍と木乃伊
 ゾンビとミイラは無論、違う。どっちかいえばミイラの方が古く乾燥している。ミイラは「木乃伊」と書く。由緒ありげである。喩えるなら乾いた古本で火をつけたら、ぼっと燃えそうだ。ゾンビは「屍」。そのまんまである。ゾンビの方が若く生々しく、また松明には利用できない。
 ミイラが歴史なら、ゾンビは伝説であろう。枯れたミイラは砂に埋まっていて、好事家が掘り起こさない限り眠ったままだが。ゾンビは自ら起き上がってくる。湿っぽい地中で待機し出番を待っている伝説であり、春の季語でもある。
 
※前に書いたものの書き直した。