猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな句をよんだ

雨の街を歩いた。銀行や新聞社のある通りは官庁街にも似ており、広い歩道は静かだった。目の悪さも手伝い行く人の個性は失われ、イラストに描かれた点景のよう。コンビニの前で傘をさしたまま煙草をふかしている人もいた。

 五月雨眺めて滲む煙かな


花屋の前を通ったら紫陽花とカーネーションが並んでいた。そしてビアガーデンの看板を見た。

 地下二階ビアガーデンは夏の季語
 
 
 
 
 

こんな話を書いた

ごめんなさい

ごめんなさい、と言って怒られた。謝らないで、と。
「ごめんなさい」
「また」
 
「ごめんなさい」と口にすると、その事を怒られる。私の卑屈さが指摘されるているのか。奴隷よ、立て、自らの足で、と鼓舞されているのか。
「提案がある。ごめんなさい、という代わりに。ありがとう、って言えば」
親切な方だ。私の「ごめんなさい」の上に旗を立て、威張りんぼするのが嫌だったのかも。

「ありがとう」
と口にして考える。こうして私は変わるのか。口癖。ささやかな習慣の変化から、ささやかな変身が起き、私の性根も変わるのかな。けれど私は暗く卑屈な上に頑迷で、私は私の部屋に吹く風を好まない。ただ嫌だ。貴方が変わればいいのに。私の「ごめんなさい」を聞くたびに顔をしかめるのをやめて。私の「ごめんなさい」を「ありがとう」という響きに聞く耳を持てばいい。
 
 
 
 

こんな句を詠んだ

先日。スターバックスに行ってコーヒーを飲んだ。お店の前にはあまり手入れをされていない植え込みのスペースがあって。ドクダミが茂り、たくさん花をつけていた。午後の日差しに。なんとなく。いいなあ、と思った。
 
植え込みに咲く十薬や珈琲を飲む
 
 
 
 

こんな話しを書いた。

労働の勝利
 
先日、植えたトマトに花が咲き、もう青い実を結んだ。この成果を私は勝利と呼ぶ。電撃的大勝利である。花壇の下には地下六十センチから、七十センチの縦穴を掘り軽石を詰めた。局地的にだが水捌け超良好の地なのだった。地下から出てきた土には石灰を撒き、天日干しをした。篩にかけて小石を取り除き、腐葉土をどっさり混ぜて。古レンガで仕切った花壇を盛ったのだった。遅効性の肥料も少しだけ混ぜて、買ってきたトマトの苗を植えた。この大勝利は初めから約束されたものだった、といえよう。
正直、トマトの収穫にはあまり興味がない。実が実れば、それは採って食べるけど。虫もきちゃうし。それより土だ。予備役的な花壇をまた別に作っていて、ふかふかの土が準備されている。我が精鋭の黒土たち。それだけで何か満足で。別に何も植えたくないのだった。
 
 
 
 

こんな話しを書いた。

穴掘り
 
苛々する事があって庭に穴を掘った。直径三十センチ深さ六十センチほどの穴を。垂直に穿つのはそれなりに大変だ。
深さ三十センチまでは黒土で、スイスイと掘ったが。そこからは青い粘土質の土だった。石に当たっては石を掘り出し、コンクリート・ガラに当たってはコンクリート・ガラを掘り出しの連続で苦労は絶えなかったが。五十センチも過ぎると、また湿気ったビスケットのような黒土だった。しゃがんでコテで土を掻き出し六十センチも掘り下げて、もういいか、と思った。
軽石をどかどか投入して埋め戻し。上に土を被せトントンと叩いた。これで、この周辺の水捌けも良くなるだろう。掘り出した土は周辺に広げ、日の光に乾くに任せる事にした。たまの穴掘りはいいものだ。明鏡止水。心が落ち着く。
 
 
 
 
 

こんな話を書いた

善意の小人さん
 
鉢植えのアロエの植え替えをした。アロエは好きだ。約二年、水遣りも何もしていないのに生き残っている。乾燥も栄養不足も無関心もアロエを枯らしはしない。アロエを枯らすのはアロエ自身だ。生き残ったアロエは爆発したかのように生い茂り、鉢の下からは新天地を求める根がエイリアンの足のように伸びていた。自らを閉じ込めてもいる鉢を割らんばかりの勢いで、アロエアロエ自身の強靭さに窒息して枯れるのだ。
で。二年ぶりにアロエの植え替えをした。青いところを九割ほど刈り込み、赤玉土にボラ土を入れて。水はけだけは良くした。これでまたアロエは生き残るだろう。あと三年ほどはつつがなく。
 
異変に気付いたのは三日ほどしてだった。アロエの鉢植えがこんもりとしてる。いちおうは二センチほど、ウォータースペースを空けていたのに。鉢の縁いっぱいに砂が盛られていた。見ると僅かに青みを帯びた砂で、路肩に溜まった砂を持ってきたものらしかった。意味が分からなかった。通りがかりの人が嫌がらせをするにしても、こんなピンポイントの嫌がらせをするだろうか。子供の悪戯かもしれない。子供は時々、意味の分からない事をするものだ。そんな事を思いつつ、砂を取り除き。また、いちおうウォータースペースを空けたのだが。
翌日には、また砂が盛られていたのだった。試しに如雨露で水やりをすると、水はすっと抜け水捌けにも問題はないのだが。なんだか釈然としない。そんな事が五回も繰り返され、私の方が根負けした。もともと、ほっておくつもりだったし。
きっと、この鉢植えには土が足りないと思った小人さんの仕業だったのだ。

 
 
  

こんな話を書いた

中央食堂の絵画
 
中央食堂の絵画を語る学生は多い。百年前に焼失した名画で黄昏時などに目撃される、と言われているが。証言は曖昧である。壁に絵画の存在を認めはしても改めて見返すとそれはなく、そもそも何が描かれていた絵なのかも分からない。
 
最近、知った事だが。中央食堂で火事が起きたという記録はないらしい。ただ八十二年前に改装工事があり、壁の一面を飾っていた絵画が解体屋さんに破棄された事はあるらしい。半年ほどたって問題になり責任者は糾弾された。遅ればせながら。喪失した絵画について喪を執り行いましょう、と論じる先生も現れたらしい。
実は歴史的にも価値のある作でありました。改めてその価値を確認し顕彰せねばなりますまい。不幸にも我々は作品を失いました。永遠に。このような蛮行が繰り返されないよう粗忽者共にも、とくと理解してもらわねば。そのための喪です。黒い服を着て失われた芸術を惜しみましょう。教訓となすのです。ホウレン草に力こぶ。
ともあれ。幻の絵は、ただ中央食堂の絵画と呼ばれている。
 
 
 
 

こんな話を書いた

遅れてきた探偵

男は言った。「なぜ事件を解決した、ちょろい俺の仕事を横取りしやがって、お前はもっと無能であるべきだったのだ」
彼は探偵だった。探偵には探偵の流儀があり、その流儀を相手に押し付ける実力もあった。腹パンチされ私はその場に蹲った。暴力も得意な探偵なのだった。
「はっきり言っておくが。お前の推理は完璧というには、ほど遠かった。確かに犯人は捕縛され、事件は解決した。が。それは中途半端なものだった。理解しているか。お前はトリックを暴きはしたが犯人の衝動を無視した。ゆえに犯人の述べた動機、荒唐無稽な与太話が無傷で丸ごと記録された。理解しろ。いっそ、お前は何もしない方が良かった。素人が」
私は地べたから探偵を見上げた。探偵の言うことは尤もな事なのかもしれない。でも、その話しを聞かされるために腹パンチは必要だったのか。さっぱり分からなかった。初対面の人間を相手に。いきなり腹パンチ。殺しも出来る犯人と、腹パンチも出来る探偵は共に理解しがたい。きっと彼らは同じ地平にいるのだ。両者が相争う平面で、私は場違いだった。どうでもいい事だが。
……本当に、どうでもいい……
思えば、それが私の口癖だった。あの孤島でも、それ以前からも。ずっと、そう言っていた。……どうでもいい……が我が魂に刻印された印だった。けれど、この「どうでもいい」は「どうでもいい」とは言えないものを、強調するための地のようなものだった。それは愛。少なくとも私にとってあの事件は、「どうでもいい」とは言えないものを押し出すものだった。愛の凸版印刷!愛する者のために、あの場違いな事件に私も関わった。多少の不手際や不完全性があったとして。素人と罵られても。それこそ、どうでもいい事なのだが。
口にはしなかった。分かりあっているらしい犯人と探偵。彼らにとっては挨拶のようなものだとしても、また殴られてはかなわない。
 
 
  

こんな句を詠んだ

チューリップも終わり、とうに花壇も植え替えの時期なのだが。まだ咲いている花もあって。どうしようかな、って迷いつつ花を切った。
  
五月きてコップに活けしビオラかな
 
 
 
 
 
 

こんな話を書いた

ありがとう・勝負

買い物をすませた後。店員さんに「ありがとう」ということにトライしてる。でも思うような反応は滅多に返ってこない。……はあ?……ってなる事の方が多い。店員さんも忙しいからかもしれないし。私の声が小さいからかもしれない。タイミングもあるのかも。お釣りとレシートを受け取り、店員さんに顔を見て。「ありがとう」と。ごく自然に明瞭な声でいうのが望ましいだろう。その「自然に」というのが、もの凄く難しい。
存在感も大事だ。存在感とは存在が示す圧のことでしょう?声が大きいとか。陽気であるとか。眼光が鋭いとか。背が高いとか。高級な服を着てるとか。そんなこと。なんか影のうすーいひとが、か細い声で。「ありがとう」と述べても。……はあ?……ってなっても仕方ない気がするのだ。
清算をすませ、コンビニのレジのお兄ちゃんに「ありがとう」って言って、また無視されてしまった。レシートを一瞥した後、相手の目を見て。一拍おき。笑顔で明朗に「ありがとう」と言えば勝つるはず。
 
  
  
天使の落としもの

痛みに目覚めると屋根はなく、飛び去っていく天使の足の裏が見え、この胸には矢が刺さっていた。曙を見上げ迷惑な落とし物を抱いたまま階段を降りて曲がった廊下の突き当たりは物置と化した暗がりで、僅かに開いたカーテンの隙間から差す光芒がつくるガラクタの影が早速、幻の女を語りだす。
到着した台所で火をつけると鍋の上には雲が浮かび、水屋の硝子も曇るのだった。