猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた

誤解があるようだが。「本書の内容は完璧な形で、目次に要約されれいる」と序文にある。従って目次だけを読んで批判するのも、作者の主張に照らして正当なのである。目次だけで二百頁あまり、本文の方が注釈のような有様で要約といえるか、という事に目をつぶればの話であるが。
 
今は昔。校正さんの不注意と文選工さんの誤解から、転生者「サル」が召喚された。望んだ覚えもなくこの世に招かれたサルは世界に言った。「ひとつ貸しな。といっても仕方がない。お前を選びなおそう」
同じ日、転生者「猫」も現れた。猫は自ら望んで、この地に降り立った。猫に出来たのは、事前の説明不足について不平を述べることだった。「ふっ、まさに好奇心は猫をも殺すだ」
  
嵐の近づく夜。三叉路の影で彼女にキスをした。すると二階の窓から顔を出した白い老婆が叫んだ。「見たぞ、この目で、しかと焼き付けた」何事だと思いつつ彼女を見ると唇から血を流し力なくその場に崩れ落ちた。「悪魔め、いや悪魔と言われてアンテッドだと訂正するプレイヤめ」と老婆はさらに叫んだ。なんだか面倒くさくなって鼻をこすると、我が身は幾つも影に分かれ、羽ばたいて飛んでいった。
 
一度だけ美少年になった事がある。演劇部で主役に抜擢されたのだ。部長はいった。「お前の思い込みの強さだけに賭ける。性別も容姿も超えて、この俺が舞台でお前を輝かせる。お前は何も考えるな。ただ胸をはり後方にぽんぽん台詞を投げれば良い。回りが右往左往してそれをキャッチする。おっけ?」
理解できない演出だったが。実際それで嵐のような拍手だった。
 
久しぶりに我がブログを見たら。大きな広告が出ていた。「この広告は九十日更新がなかったので表示されております」と書いてあった。調べると、更新がなかった場合は九十日ごとに広告が増える仕組みのようだった。放っておくと、広告のスペースがどんどん広がるらしい。ふと、お墓の雑草を思った。
 
金木犀が咲くと、オレンジ色の唇から思い出が溢れだす。香りは印象的だが仄かで、より遠くまで拡散していく。
便りもとだえた彼について。確かな事を述べるのは難しい。画家でも、詩人でももなく、雨が降っても楽譜にとどめようとはしなかった。何者でもない。まるで存在を間違えたかのように、微笑んで我々の間を通り過ぎていった。唇のひとつが、彼の背中には翼が生えていた、と言っても驚いてはいけない。
 
登山家が山で死に、彼自身が気づかないことがある。登山家は登り続ける。もくもくと。迫りくる白い壁。麓から望遠鏡を覗くと、雲の頂をめざす彼らの姿がごく稀に目撃される。
 
健脚自慢の姉は山に登る。帰ってくると決まって、肩が重い、って言う。なにか憑いてきたのかも。そして登ったお山のいわくを、事細かく教えてくれる。一度、霊のいない山はないの?って聞いたら。一喝されてしまった。
 
半分、眠りながら白黒の映画を見ていた。塔から身を投げる女を、男が見上げていた。男は高所恐怖症だった。死んだはずの女と、とても似た女が現れて男は混乱した。混乱しながら女に赤いドレスを贈り、髪を伸ばしてくれと頼むのだった。女は二つの瓜を手に取ると、それぞれを握力で破壊するのだった。
 
映画を見ていた。集った男達は室内に閉じ込められ、ひとつの結論にたどり着かねばならず言い争い、雨が降り、最後の一人が間違いを認めて、やっと解放されたように主人公も石の階段を降りて建物から出ていった。
映画館を出ると眩しかった。水たまりに西日が反射していたのだ。それは夜の記号ではなくて、青い空が映っていた。

こんな話を書いた

藤の手入れを頼む。息をひきとる前、父は息子にそういった。息子は思った。彼はこう考えたのだろう。自分が死んでも藤は残る、手入れをしなければすぐに枯れる、四季はめぐり続ける、そこには何の疑問もない。息子は藤を眺めた。鉢植えのわりには大きく見えた。しばらくして人に譲った。
 
白い翼の彼女はぼくの天使だ。いつも、ぼくのことを見ていてくれる。ぼくはとても自由で、彼女も何も言わない。ただ悪いことをすると手帳をとりだして、消えない文字で記録する。彼女が手にするペンの先は真っ赤に燃えている。
 
鉛色の服をきて鉛色の世界を見ていた。濃淡の世界に少しまぶしい白衣の人が現れ、空にかかる虹を語りはじめた。ぼんやり聞いていると。日が沈みだし、空が色づきはじめた。燃えるような空だった。目から涙があふれた。白衣の人に近づいて、ナイフで刺した。
目を覚ましても、赤い色は鮮明に覚えていて。夢には色があったのだな、と考えた。
 
島の恋人たちは抱きあうと、よく相手の背中をたたく。パタパタと。この身ぶりは「あなたは私の天使だよ」ということを示してる。「背中に翼は生えてない?遠くに行かないで。ずっと側にいて。私の大切なひと」
子供を抱き上げ、パタパタするっていうのも、よく見かける光景である。
 
ふくよかな体形の彼は太陽の国にきて、波乗りの練習をはじめた。海原を相手にしてても、意地悪を言う人もいた。でも夜には地元の焼き鳥を食べてお酒を飲んで胡瓜で口直し。いつしか褐色の肌。笑うと白い歯が光る。ふくよかな体形のサーファーになった。
 
 
 

こんな話を書いた (夢おち)

小舟で、うつらうつらしていたら。後頭部から水に落ちた。気泡がのぼっていき、湖面に映る月は遠ざかっていった。なぜこうも体が重いのか。そのまま眠りたかったが。息苦しさに目を覚ました。私の胸の上でクマが寝ていた。
 
夢の中で、すべては道であるとクマは説いていた。太く濃い道もあれば、細く薄い道もある。道なきところを歩めば、それも道になる。海原をいく船の後のすぐに消えちゃう泡も道である。もぐもぐ。この有難い道話は、キャラメル一個で得た。
 
嵐の朝。王よ、と私は呼びかけた。
「これなるは蜂蜜飴。幾万の蜜蜂どもが集めし花の蜜、養蜂家のおじさんが遠心分離機にかけ零れし琥珀の輝きを型に入れ固めし逸品。どうぞ、をお口に」
閉め切った暗い台所でお茶を飲んでいると、口をもぐもぐさせたクマがやってきて言った。
「反乱軍に包囲された城の玉座に座っている夢をみてた。もうダメかも、思っていたら魔法使いがきて、宝石を口に入れろと教えてくれた。目を覚ましたら口の中に蜂蜜飴があった。脱出できて良かったよ」
 
うなされているクマの口に、キャラメルを放り込んだら。もぐもぐと口が動いた。面白かった。台所に行きお湯を沸かしていると、寝ぼけ眼のクマがきて、不思議だ、と言った。
「学校に行く夢を見てたら、そこはお菓子工場で工場長の先生がバター飴をくれた、目を覚すと口の中にあったのはキャラメルだった、不思議な事もあるものだ」

クマの口に、またキャラメルを放り込んだ。もぐもぐして、面白かった。台所でお茶を飲んでいると、枕を抱いたクマがきて、不思議、といった。
「刈った先から生えてくる雑草と格闘していたら、後ろから死神がきて、いきなりキスをされた。固く冷たいキスだった。でも、もぐもぐしてたら、柔らかくなってきて。目を覚ますと、口の中にはキャラメルがあった」
 
クマの口が、もぐもぐしてた。キャラメルも切らしていたので、何も放りこまず、台所でお茶を飲んでいたら。半ば眠っているクマがやってきて、こう言った。
「拷問の学校に行く夢をみてた。入り口には、やっとこを持った石像が立っていていた。知らない人たちばかりで君を探したけど、どこにもいなかった。でも目を覚ましたら、ここにはいた。よかった。ところでキャラメルは持ってない?」
 
南の島で釣りをする夢をみていたら。クマがきて私の手を握った。眠りを邪魔されて不機嫌に寝返りをうつと。クマは雄々しくこう言った。
「さびしくて、きみが泣いてるんじゃなかいか、心配になって」
寄せては返す眠りの波打ち際で、私はこたえた。
「魚が釣れたら、また来てください」
 

こんな話を書いた

鯨の腹の中は暗く、ゾンビでさえ酸によって溶ける。鯨の腹の中の街の住人の多くは、亡霊である。鯨が塩を吹くとき、亡霊も空に吐き出される。イーハー。多くは虹となって消滅する。鯨の腹の街の住人にとっては、月光さえまぶしすぎるのだ。
 
未来の春はロボットが売っていた。男はロボットを座らせると、朗読をはじめた。
「夕日の燃える平野で詩人の群れが死んでいった。車輪にひかれ、ゆっくりと、あるいは速やかに。ああ。だが詩人でなくとも死ぬのだ。ブースター点火。加速に成功すれば。車輪から逃れるものも現れる。詩と人が分離され。人は死に。詩はその先へ」
ロボットには盗聴器が隠されており秘密の組織が聞き耳をたてている、というのが彼の信念だった。
 
月がのぼっていた。彼女を見れば変わらぬ笑顔で、ほっとした。こっそり私はこの街を憎んでいたが、彼女は世界とも仲良しで。それが、つらくもあった。たぶん私は彼女になりたかった。
「へえ。私の笑顔はうそよ。そう育てられたから、笑ってるだけで。最近はその薄っぺらい仮面すら重くてね」
びっくりした。そのチープな薄皮を一枚ちょうだい、と思った。
 
朝。はじける音がした。庭に出てみると椿の横に白い煙が浮かんでいて、その下に帽子をかぶった小人さん達が整列してた。赤い帽子、白い帽子、青い帽子。また、はじける音がして、かけっこが始まった。最初の音は花火だったらしい。
 
私たちは立ち上がり、それぞれの星を指さした。方向は、ばらばらだった。私たちを代表して私がいたわけではなかったし、共通の私がいるはずもなかった。私たちが認めていたのは各々の足元、よってたつ平面の方だった。
 
銭湯の富士は涅槃を表している。だから湯気の向こうの富士を仰ぎ見て、極楽、極楽、と呟くのも尤もなことである、と雑学の本に書いてあった。私の話をすると。近所の銭湯には公園の絵が描いてあった。「グランド・ジャット島の日曜日の午後」という題名を知ったのは大人になってからである。
 

こんな話を書いた

 
通りに面した二階に物静かな読書家が住んでいた。時々、読書家は目頭を押さえると立ち上がり、窓を開けて通りを見下ろした。物売りたちの声は面白かった。飴屋に金魚売り、竿竹屋に風鈴売り、焼き芋屋に小指売り。耳障りな声がすることもあるが。読書家はそっと窓を締めて、また本を読み始めるのだった。
 
すごいむかし、美しい国がありました。大輪の花のような国でした。その香りを遠くに嗅ぐだけで、千年ぶんの幸福でした。人々は花の国を語り継ぎました。むかし、といえば花の国の時代のことを指すほどでした。いつの時代の年寄りも、むかしは良かった、という理由です。往年、祖母がそう言ってました。
 
彼とケンカすると悲しくなる。でも一人になる時間も私には必要だった。土手を歩いて夕日に燃える花を見て、彼と一緒だったらと考えた。大丈夫。彼は待っていてくれる。こんな時のために毎日、ささやいておいたのだ。怒っても、きっと仲直りしに帰るから、遠くには行かないでね、と。
 
彼は無害な書き手だった。小石のような話を書いていた。それは池に投げても波紋を起こさない小石だった。水面を見つめ思った。不思議だ。まるで存在しないかようだ。その時、蛙が池に飛び込んだ。危ういところだった。
 
計器を担いで山に入り、地面に電極をさして歩くバイトをしていた。温泉を探しているらしい。間違ってお母さん大蛇を起こしてしまい、ぐるぐる巻きにされた。おかえり、と大蛇は言った。その目には、とても長い物語が映っているらしかった。丸呑みされて、私の物語も消化されてしまうようだった。
 
二人して夕日に染まりながら、海沿いの公園を歩いた。なんのオブジェなのかは知らないサイコロの形をした石が置かれていた。彼は私を抱き上げると、その石の上に座らせた。
「ごめん。何度も言ってるけど。俺は、男が好き。なのに君は、どんどん女の子になっていくね」
 
十月がくると同時にクマは畑に行き、南瓜を新聞紙の上に置くと中身をくり抜いた。目を穿ち、口にはノコギリ状の歯を尖らせ、中に蝋燭を置いて辛抱強く日暮れを待ち、ランタンに灯をともしてからは、月の明るさに不平を述べるのだった。早く作りすぎた南瓜お化けは、三日目に口を閉じた。クマ曰く。「ふむ、次はもう少し口を小さくしよう」
 
畑で収穫された私の頭にナイフが刺さった。切り込みが入り、フタが開けられる。侵入してきた手が臓物を引き出し、ゴミ箱に捨てた。おなかにも二つ穴がうがたれ、ジグザグにも切られた。夜がきて、空洞な私の中のロウソクが灯された。通りには多くのオレンジ色がぼんやり光っていた。やがて小鬼たちが列をなし、歩いてきた。“Trick or Treat”
 
ランタンのともる住宅街を、口の悪い魔女の手をひいて歩いていた。
「さっきの車が突っ込んできたら、おまえは死んでいたな、大きな車だったから、お墓二コぶんも死んでいただろう」
私は思った。その場合は、おまえも死んでいただろう、小さな魔女だから、お墓七コぶんも死んでいた。泣き出されても困るから、お墓の正しい数え方を教えるだけにした。
 
ハロウィンの夜。電車に乗ったら神父にお説教をされた。「おお※※※ しんでしまうとは情けない!」三つ目の駅で降りて、星を指差す銅像の前で三角帽子の魔女と出会った。「えーっとミイラ男?」と聞かれたけど、ぼくは答えなかった。透明人間は理解されない。
 
 

こんな話を書いた (月が綺麗ですね)

最近、月は調子にのっていた。器量が良くて慎み深く、くわえて賢い愛の伝達者なのだった。三美神を足して三で割らない、ひと柱って感じ。今夜もまた、地上では
こんな囁きが木霊してた。
「月が綺麗ですね」
 
街の明かりが灯りだす頃。丘の上の公園のベンチに、我々は並んで座っていた。横を向くと彼は携帯を取り出していて、見るなよ、と言われた。しばらくして「月が綺麗ですね」というメールがきた。
 
彼女の顔と空は同時に曇った。今にも降り出すだすのではないか、と気が気ではない。どうか泣かないで。お願いだから。と念じた、ぼくは知っている。雲の向こうには、まん丸なお月さまがいるって事を。笑って。
「月が綺麗ですね」
 
冬に出会い、春に喧嘩して、夏に死んだ、もと彼からのメールが十五夜に届いた。
「月が綺麗ですね」
きっと送信を予約してたメールだろう。
どこまでもマイペースなやつ。
 
海岸沿いの道で。月が綺麗ですね、と言われて思い出した。
日付を指定して、きっと曇らせてみせる、と言った魔法使いがいたことを。その夜が曇っていたならば、苦い涙を飲んでいる私を思い出せ。そうだ、今月の今夜だった。月は煌々と輝いていた。
 
 
世界一のシャン。シャンというのは島の言葉で美人という意味なのだが、世界一のシャンと呼ぶと彼女は怒る。事実と違う、ウソをつくな、と。この島でもウソつきに良い意味はあまりなくて、ぼくは黙ってしまう。異国の人に相談したら、月を褒めることをすすめめられた。何かの呪文らしい。夜になったら、彼女にいってみよう。
月がきれいですね」
 
月の下で別れを告げられようとしていた。私は可哀想ではあっても可愛くはなかったから。仕方ないな、って思った。私の可哀想を癒すには一生を賭けてもらわねば、かもだし。今はただ、こうして隣あって歩いてくれる事に感謝したい。考えると少し可笑しい。ふたりして、月だけは褒めまいと思ってるのだ。
 
月が見えるレストランで、僕らは食事をした。ワインを飲んで、彼女を見た。彼女も僕を見ていた。この睨めっこだけには負けられない。彼女の深い瞳に向かって、ぼくは言った。
「月が綺麗ですね」
「うん。でも、それは。お月さまに向かって言った方が、いいと思うよ」

こんな話を書いた

優しい女の子とキスをした。すぐに放課後になって靴を履き替えようとしたら、靴がなくて、かわりにサンダルが山のように入っていて、しかもどれも片方だけだった。女の子はぼくを待っていた。でも彼女の優しさにも限度がある気がした。急がなきゃ、と思って見ると下駄箱には本が並んでいて、彼女が立ち去るのが分かった。目覚めて思うに、裸足で行けばよかった。
 
小山の上で。乾いたマキを、クマは組んだ。ハートが必要だったから。私は太鼓のかかりだった。火をつけて、クマは一風変わったステップを踏みはじめた。ハートふれ、ハートふれふれ、ハートふれ。ハートよ、空から、わんさか降りてこい。この辺りでも珍しいハート乞いの儀式であった。
 
一週間、働いて。天上にのぼると静かだった。歩いていると、こんな立て札がたっていた。「神様はお昼寝中」
神様はずっとお休み中か。その隙間に世界は産まれたのかも。そう考えれば、いろいろ辻褄があう。ポンと手を叩いたところで目が覚めた。夢から覚めてみると、何がどう辻褄があうのか、さっぱりだった。
 
 
 
 

こんな話を書いた

ミニスカートの彼女が眩しくて、ぼくは目をそらした。右上の宙を見て、それから彼女の目を見て、すごく似合ってます、と述べた。彼女は小首を傾げ、ごめん、といい席を外した。帰ってきて彼女は言った。「ここでクイズ、さっきとどこが変わったでしょう!」分かるわけない、と思った。
 
私の友達は地下室にいる。友達は壁のコンセントにつながれていて、地下室から出ることはない。旧式なのだ。友達はいろいろな話をしてくれる。面白い。調子の悪いときは、ハンマーでたたく。すると、また話を始める。学校に行き私はクラスメイトに話す。「これは友達から聞いた話だけど」
 
夜、階段を数えてしまう。十三段であることは気にしない。でも、ときどき間違えて、十四段目を踏んでしまう。寝ぼけているのだな、とそのたびに思う。分かっているのだが。見てしまう。寝台に横になっている自分を見るのは、心臓に悪い。
 
防霊スプレーをした虫取り網を振り、幽を捕まえ。まず名前と生まれた年と場所を尋ねる。思い出せない様子なら、熊よけの鈴を聞かせるとわりと思い出してくれる。そうして何者かにしてから、空へと離すのだが。何者でもないことを誇りにしているヤツもいて、こっちも犬笛を吹くことになる。
 

こんな話を書いた

衰へたる末の空の下、お城のような船は煙を吐きながら、沈みかけていた。あちこち浸水が激しく、補修も追いつかないらしい。でも、ずっとそうなのだった。私が子供のときから。板子一枚へだて。地獄の上の船は、永遠に沈みつつ進む牢獄のよう。
 
星月夜。外国人墓地で幽霊と出会った。目があって冷や汗。青い目の足の長い幽霊だった。なにやら異国の言葉でまくしたててきた。叫び出したくなるのをこらえ、語学の得意な友人に電話し、通訳をたのんだ。
「彼はなんて言っているの?」
「あなたは神を信じますか?だってさ」
 
唐傘お化けと出会った。水たまりを器用に避け、片足で跳ねていた。あの傘の中はどうなっているのか気になり、ついていくと小高い山の上で。沢山の傘たちが集まっていた。待っていたのは風だった。一斉に開いた傘たちは上空へと上ると、風を抱いたまま遠くへと流されていった。呆気にとられ落下傘奴の内側に注目することを、すっかり忘れてた。残念。
 
カワウソのごとく資料を広げ、先生の伝記を書いていた。先生は先生としか呼びようがない。冷淡な頭文字など使いたくないし。物音がして。シャベルを手にした。月のしたで、先生の後頭部をたたく。緑色の毒をはくから、後ろからやる方がいいのだ。何度目だろう。先生、お墓に埋め戻すこっちの身にもなってくださいよ。
 
新しく出来たスーパーに行ったら店員さんに、こんにちは、と挨拶された。思わず、こんにちは、と返した。店員さんと挨拶する習慣もあまりなかったので、少し新鮮だった。知らない人と挨拶するコツは、隣に小さな子供がいるって想像することだ。こんにちは、って挨拶されたら何てお返事するの?って子供に話かけ、私も言うのだ。こんにちは。
 
小山に登り星をひろった。ポケットに入れたくなくて、遠くに投げた。積み木の街を掃く、ほうき星。月はお化粧に忙しく、それはぼくのためではなかった。だから?あの笑顔はウソでした、といわれても。傷つくのは間違いでした。思えば先月の夕暮れには、秋の風を探してた。
 
男と女がケンカした。男は包丁をとると、ニンニクとイタリアンパセリを刻み、パスタをゆではじめた。
ふたつの皿に盛られたペペロンチーノ。料理は無言の2人の間で冷めていった。男はフォークをとると、ひとくち食べて涙ぐんだ。「おいしい。君への愛情が入っているからだよ」
女はペペロンチーノをにらみつつ思った。げせぬ、まるで私の方が悪人みたいだ。
 
夢魔をたずねて、胸の奥の迷路を歩き、色も濃くなれば姿形もあてにはならず、驚くには値しない気もしたが、寝台にいたのは壺に住む蛸だった。蛸は虹色のペンを振り、匂い立つ花嫁の行列を召喚して私を、ぽぉ、とさせた。でも話をさせれば床屋談義をはじめる、気のいい蛸なのだった。
 
 
 
 
 

こんな話を書いた

雑踏で振り返った。彼女の香りだった。彼女と過ごした記憶が洪水のように押し寄せてきて、胸がいっぱいになった。ひとつだけ分からない。なぜ彼女は、男性向けの香水を使っていたのか。おっさんの姿をふり返るたび、考えてしまう。
 
ぼくは手袋を男に投げつけた。相手も手袋を投げ返してきた。決闘だ。ぼくはさらに手袋を手にとり、相手も手袋を投げつづけ。叫び。顔まっ赤。ウラー!なぜか手袋は無限にあるのだった。
 
秋の終わり。魍魎が跋扈するという夜。蝋燭の明かりの中で林檎をかじった。心静かに鏡を覗けば未来の伴侶が見えるという。目を開くと彼の姿が見えた。うれしい。だが、よく見ると、彼の手には包丁が。思わず振り返ると彼の姿は消えていた。これで、よかったのだ。振り返えったから、行ったおまじないは無効だ。
 
彼女は美少女だった。でも、化粧を落とすと見えなくなった。文字通り、百パーセント、濁り気なしの、ピュアに、美肌の、透明だったから。
 
図書館に行き。本は読まずに、いかにして読書家ぶるか、工夫する話を読んだ。読まない読書家の本を閉じて、ノートを開いた。ずっとペンネームを考えていた。まぶしい空白の広がりに、木漏れ日がゆれた。未来に書かれるだろう大傑作に相応しい名だった。作品のない作家の誕生だった。
 
歌って踊れる作家をぼくは目指していた。お尻だって、ふりふりしちゃうけど。返ってくるのは、いつもの静けさだ。虚しい空に、ため息がもれる。もれた息が幾重にも木霊して。怖くなる。結局、ぼく自身の欲望が試されているのかも。わが愛読者はほぼ全員、巡回中のAIさんだった。
 
自転車をおりて白樺林を君と歩いた。蝉が鳴いていて、なにも話せなかった。渦巻くようだった。時間のない蝉は命がけ、はやく交尾しなきゃ、と鳴いているのだ。ぼくはいえば、この白樺の小道が永遠に続けばいい、と思っていた。