猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を思いついた 虚構村の掟(仮)

虚構村の掟
 
虚構村の住人は無口だ。直接、口くちをきく事はほとんどない。ただ詩やお話を紙に書いては、それを図書館に置き、回し読みしたり、あるいは無視することで奇妙なコミニュケーションを計る。図書館は村の中央に位置する。訪れる村人はみなフードをかぶり、黒いベールで顔を隠している。その個性を欠いたいでたちは、作家は純粋に作品によって評価されるべきで、その評価の前に作家の顔などは不純なものでしかない──という村人たちの考えを示すものだ、といわれている。
森の樹も芽吹く三月のとある日。静かな村にさざなみが起こった。それは村人たちにしか分からない、ほんとうに微細な波紋。ひとりの村人、若者が恋をしたのだ。彼の苦悩を平たく説明するなら、はたして彼が愛したのは、彼が読んだ詩集なのか、それともその詩を編んだ娘、作者自身なのかっていうこと。
若者はその苦悩をお話にして遠慮がちに図書館に置いたが、古い村人たちからすると、まだ大胆すぎ無作法なものに映ったらしい。問題は物語をおくられた娘。ある意味でラブレターと読めないこともない物語を彼女も読んだ。村の時はゆっくりと過ぎる。
半年後、娘は沈黙を破り、いっぺんの詩を図書館に置いた。それはたいそう美しい詩であったが、作品の完成度が若者を拒絶しているのも、また明らかに見えた。たぶん。
ともあれ、若者も村人もそう受けとった。若者の胸うちはいかばりであったろう、と思っていたら翌年の春、若者は悲恋の物語を発表し、その才能の健在ぶりを示した。これ以降、彼は生涯その悲恋の物語を書き綴り、これが彼のライフワークとなる。娘は知らん顔しているが、じつは愛読者だ。