猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を考えた 「ひらけごま」

ひらけごま
 
ラブレターを書いた。三日かけて。後悔しないように一週間ねかし何度も読み返し、大丈夫と思った。誤字脱字は最悪だ。それから、また一週間あれこれ悩んだすえに、やっと彼女の下駄箱に手紙を入れた。結果は迅速に返ってきた。彼女はクスクス笑い、クラスみんなの前でぼくの手紙の朗読をはじめたのだ。なかなかの傑作ではあったらしい。ぼくのラブレターは大ウケだった。大爆笑の渦の真ん中で胸が冷たくなった。たぶん氷点下まで。ぼくの胸にバナナを持っていけば、釘を打つことだって出来ただろう。そんな冷たさ。──彼女は最悪だ。私信の秘密もなにもあったものじゃない。みんなも最悪だ。これはイジメだろう?世界なんてクソだ。ぼくは復讐を誓った。

復讐のチャンスもすぐに訪れた。まず相手を良く見よさ。彼女の視線をおえば、そこにはいつもAの姿があった。Aはテニス部だ。背も高く勉強もそこそこ、そしてなにより爽やかバカだ。ふっふふ。そんなヤツが好みかね。ぼくは迅速に行動を開始した。まずテニス部に入りAの信頼をゲット。見た目、親友?そんな感じ。彼女の視線に手をふる。それから頃合いを見て、ぼくを手酷くふった女にこう言った。──「もしかして、きみAのこと好きなの?」──彼女はギクリとしたようだった。ふぁははは。ぼくの見立てに狂いはなし。ぼくはアレコレうまいこといって、ついに彼女のラブレターを得た。つまり、彼女からAへのラブレターだけど。ああ、長い仕込み期間であったが、それも終わり。ぼくがやるべきことは、これ以上ないというくらいに、もうハッキリしている。

昼休み。ぼくは以前、彼女がそうしたように、オホンと咳払いした。それから黒板を爪でひっかき、クラスのみんなに静粛を求め、彼女のラブレターをば開き、これを朗読してやった。──けれど、なにかがおかしい。クラスが静まりかえっている。この沈黙はなに?見ると彼女がシクシク泣きはじめ、女どもがそれを取り巻いていた。えっ。そんなのあり?冷たい視線がぼくに突き刺さる。ちょっと、待てよ。同じだろ?同じことをしているだけだろ?とぼくは思った。そのときだ。

Aが現れたのは。教室のドアをバシッと開き、息をきらし。Aはぼくの手から手紙をひったくると、さっさっ、と読み。ウン、ウン、と頷くと。泣いている彼女の元へ行った。それから、ありがとう、とAは言った。──「ありがとう。いろいろ手違いがあったようだけど。もう泣かないで。というか、ぼくはもっと酷いことを君にいわなきゃいけないのだ。ぶっちゃけ、君の気持ちはこたえられない。……そう、ぼくには好きなひとがいるのだ。それはロジャー・フェデラー」──彼女は、ハゥ?、という顔をしていた。野次馬のひとりがこう言った。──「それって、Aくんが、ウホッのひとって意味ですか?」──Aは深く息を吸い込み、そのとーおり!と答えた。──「ぜんぜん話ちがうけど、ぼくは転校する。海外でテニスを学ぶつもり。じゃ」──そう言ってAは立ち去ったのだった。

しばらくの間、彼女とAの話でもちきりになった。Aのカミングアウトの話もえらいまでに盛り上がり、こういってよければ凄まじい娯楽として楽しまれた。なっ、なんなの?ぼくは一人とりのこされた。結局さー。恋愛もまた、みんなで楽しむべき娯楽だったってことなのかな。そして凶暴な娯楽のまえに私信の秘密などというのは本当に、ちっちぇーことだったってこと?そんなことを考えながら海岸へと歩いた。他にこれといってやるべきことも思いつかなったので風にむかい、ぼくはこう叫んだ。──「バカ野郎!」

ゆうべ調子づいて、h:keyword:短編 に書いた話。うーん。