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こんな話を考えた「遠き島より」

郊外のモールで中学の時の同級生とばったり出会った。出会ったのはいいけど、名前もよく思い出せなくて、話をあわせるのになんか苦労するような級友だった。ちょうど我々は食料品売り場にいた。近況を話し、懐かしいね、という話をしながら夕ご飯の買物をするのは、少し妙な経験だった。くだもの売り場にきて、ヤシの実が売っていた。ダンボールに入ったそれは、一コ298円と書いてあった。突然、級友は歌い出した。「名も知らーぬ、遠き島より、流れ寄る 椰子の実一つ♪」(※1)
歌い終わると級友はその実をひとつ手にとり、カゴに入れた。我々は並んでレジへと進み清算をすませた。さて、それじゃ、さようなら、夕ご飯も支度もあるし……という雰囲気だと思ったけど、級友はまだ話があるようだった。
「ところでさ、あんた、おれの名前、忘れているっしょ?」
ぎくりとした。級友は、いいって、いいって、と言い笑った。そして、ハイといい。ヤシの実をぼくに手渡した。
「それじゃ」といい手を振り、立ち去る名も知らぬ旧友。
突然の贈り物を受けとった、ぼくがひとり残った。南の島の青い実は、ずしりと重かった。ぼくは口に出して言った。
「で。これ、どうせー、ちゅうの?」
  
  ※1 島崎藤村作詞「椰子の実」より 

 
7月に、ハイクのh:keyword:短編に投稿した話。一