猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を考えた 「壁の向こう」

独房にひとりの男がいた。独房は壁に囲まれ、床と天上も含めて頑丈な石で出来ていた。男は寝台に腰かけ、壁を凝視していた。それは覗き窓のついたドアある面とは反対方向に位置する壁だった。男は疑っていた。こんな壁は幻で、おれはおれの思い込みの中に閉じ込めてられているのではなかろうかと。試しに男は立ち上がり、壁に向かって歩いた。ゴツンと壁にぶつかって、かなり痛い思いをした。男はまた寝台に座り、額に手をあてた。けれど彼の懐疑は晴れなかった。集中に集中を重ね、男はまた立ち上がり、壁に向かって歩み、そのたびに痛い思いをした。
男が101回目のトライをした時だった。壁にぶつかった瞬間、奇妙な違和をおぼえた。壁はまさに頑強で冷たく硬いのだが、ほんの一ミリほど柔らかい層があって、体がめりこんだ気がしたのだった。男は確信を深めた。いける、いける、偽りの壁の向こうへ、あと1000回もやればいける!そのときである、壁が口をきいたのだった。壁は言った。
「おまえの懐疑はもっともで、かつ正しい。つまり壁は存在しない。おまえは、偽りの壁を突破し、いずれその向こうへと行けるだろう。あと1001回もトライすれば行けるだろう。しかし壁の向こうには何が存在するのかを、お前はしらない。茫漠とした砂漠が広がっていれば、まだ良い。壁の向こうはいきなりジャングルで、お腹をすかしたトラが口を開けて待っているかもしれない。あるいは断崖絶壁で壁を乗りこえたと同時に、おまえは落下して死ぬかもしれないのだよ」
男は唸った。確かに男は壁のことに集中するあまり、その向こう側のことに無頓着だった。
「でも、でも、壁の向こうはふつうに青空で、閑静な通りがあって、お店があって、親切な店主がおれに冷たいビールをふるまおうと、いまだ遅しと待ちかまえている可能性だってある訳でしょう?」
壁は言った。
「おまえ、それを信じているの?」
男はちょっと自信がなかった。
「ともかくさ。おまえは閉じ込めれている、と思ってるかもしれないけど、同じ程度におまえを保護してる可能性だってあるってことも考えて欲しいな」
「なんか、騙そうとしてない?」と言う男に壁はこたえた。
「いやぁ、おれ存在しない壁だし」


きのう、ハイクのh:keyword:短編に投稿した話。一