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短い話とか 俳句とか

「みんな死んじゃえばいいのに」

「みんな死じゃえばいいのに」と確かにぼくは言った。それは完璧な独り言のつもりだった。でも隣には気のやさしい友人がいて、ギロリとぼくを睨みつけた。なんて恐ろしい子って目だ。ぼくは言い訳した方がいいと思った。この場合の言い訳とは。自分が言った「みんな死じゃえばいいのに」の意味……とゆうか。その独言を言うまでに至る思考の過程を発露することだ、と思った。で。頑張ってみることにした。
その時、ぼくらはラジオを聞いていたのだ。そうしたら映画「卒業」のサントラが流れてきて、いい曲ですね、そしてとても良い映画でした、花嫁奪取の話も良かったし、ってディスクジョッキーの方が話だしたのだった。ぼくはそうした懐古の中でこの映画や曲を美化するのは、少しイヤな気分だった。てゆうか。この映画を反復するたびに、なんて身勝手な連中だ、と思うのだ。ぼくは花嫁を奪取された花婿の立場に立って、映画の続編をつくったらどうなるだろう、と想像した。
教会で花嫁に逃げられた花婿は、ずっとその事を言われ続けるのだった。なにかあると、まっ寝取られ男だし、と影で笑われるのだ。この強烈で強固なレッテルを前に元花婿はだんだん精神を病み、ついに元花嫁と花嫁泥棒の殺害を決意するのだった。ぐふふふ。……元花婿はカービン銃を手に2人への復讐の旅に出た。探偵を猟犬のように使い、元花婿は2人の居場所をつかんだ。双眼鏡で目視できるほどの距離だ。ぐふふふ。探偵のレポートに目を落とす元花婿。……レポートによると、教会を後にした2人はすぐに喧嘩して、1度別れていたのだった。その後、またよりを戻しているのだが。凄く貧乏で口論ばかりしているらしい。女はコーヒーショップのウエイトレスで、男は北の海に蟹漁の出稼ぎ生活だ。ぜんぜん幸福そうじゃない。
暗殺者が覗く双眼鏡の中で、元花嫁と花嫁泥棒が出会う。半年ぶりの再会だ。生活に疲れてきったふたりは、コンテナみたいな家の前で睨みあう。まるでこれから決闘でも始めるかのように。それから目をそらし、ふたりは家のドアを開く。四角い家の前には、小さな花壇があってトマトが植えてある。眩しい日差しの中に赤い実が実っている。暗殺者は双眼鏡を下し、ひとりごちた。「みんな死んじゃばいいのに」
……以上が、ぼくの独白の意味、っていうか、なりゆきなのだったのだ。友人は、ため息。「もういいから」と言った。