猛烈な勢いでメモ ダッシュ

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海のトランペット吹き

人はなぜ、海にくるのだろう。沖をいく船に挨拶をして、飽きもせず打ち寄せる波に飽きるまで、遠く水平線の彼方から吹きつけてくる風を頬に受けるため。……少なくとも、下手なトランペットを聞きにではない、って思うのだ。ぼくは静かに海を見たいだけなのだが。トランペット吹きたちは海岸に散らばり、てんでばらばらに各々の音を練習してるのだった。ぼくは思った。こんな日もあるさ。
次の休み、海に行くと。またトランペット吹きたちがいて、バラバラの音を吹き鳴らしていたのだった。……えっ、今日も、今日もなの?……。 
次の休みも、その次の休みも、トランペット吹きたちはいた。心穏やかではない気持ち。黒雲が胸に立ちこめる。ぼくの目はほとんど殺意に燃えているが、トランペット吹きは練習に忙しく、ぼくの目など気にしてないようだ。毎週欠かさずぼくは海に行った。それはまるで、海に生息するトランペット吹きを確認するために行くようなものだった。静かな海など、もうないのだ、という確認の繰り返し。

何時ものようにトランペット吹きを睨みつけていると。ひとりのおじさんがやってきた。
「先週もいらしてましたね。あなたもトランペット吹きがお好きなんですか?」
返事をしないぼくに彼は肩をすくめると、携帯音楽プレーヤーのイヤホンを耳にさし、去っていった。