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猛烈な勢いでメモ ダッシュ

短い話とか 俳句とか

こんな話かいた

短い話

 
「愛してる」と彼女が言う。もちろん「愛してる」と私も言う。疑問文のような、間投詞のような、ただ挨拶のような「愛してる」がいっぱい!「愛してる」で足の踏み場もない、ってことにならないのは幸いなことだ。二人とも物忘れが得意になっているのだ。
 
山奥の細い道を登り、開けた場所に出た。お寺があった所らしい。ゴロゴロしてる岩のひとつを拾いハンマーで叩いた。岩は二つに割れ、唸りだした。四百年ほど昔、此処で鳴いていた蝉の声が岩にしみ、閉じ込められているのだという。
 
師は底意地が悪い。これも修行と耐えてきたが、これ以上は私が滅してしまう。私など滅してかまわぬ。が。師が変わらず御題目を並べ悦にいるのは我慢ならぬ。胡麻擂り棒を握りしめ正面からゴツンだ。殴るとポワンと煙が出て「よし印可を与える、後は任せた」という声がした。
 
「生き別れの妹です」と彼女は言った。俄かには信じがたい。というか、まったく実感が湧かない。っていうか、妹ってなに?美味しいのそれ?…という感じ。想像の限界が世界の限界で、妹は間違いなく埒外であることに私は気づいた。姉の悪口ならば、いくらでも出てくるのだが。
 
赤いラベルの缶詰を開けると、作家さんがいた。円柱形の空間をぐるぐる歩きながら、うんうん唸っている。頑張れ、と思った。
 
「完全な密室だったのですね」と探偵は念を押した。「はい」と守衛は答えた。「我々がドアを解除した時、熱気が溢れました」探偵は室内に入らなかった。昨夜も熱帯夜だった。彼も暑いのが苦手だったのだ。
 
登山家が山で死に、彼自身が気づかないことがある。登山家は登り続ける。もくもくと。迫りくる白い壁。主に八月。雲の峰の頂をめざす彼らの姿が、ごく稀に目撃される。