猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた

春蝉
 
子供のころ学校からの帰り道に、蝉屋敷はあった。屋敷といっても古ぼけた二階屋があるだけで、ただ庭に欅の木が茂っており、暑くなると蝉が五月蝿いほどに鳴くから、近所の小学生はそう呼んでいたというだけなのだが。なぜだかこの蝉屋敷が私は怖かった。椿の垣根ごしに二階の部屋へとつづく外階段を見ては、ここに泊まることになったらイヤだな、と思いときどき夢にまでみた。
蝉の声に、ふと目覚めると金縛りで足元に方にドアがあって。その向こうはあの蔦の絡まった階段だ、と分かるのだった。私の部屋が蝉屋敷の二階で、とどのつまり。私は蝉屋敷の子供だったのか、などと恐怖した。夢なのだが。
 
花見を終えた月夜。久しぶりに昔、歩いた通学路を歩き、蝉屋敷のことを思い出した。見れば家も階段も欅も跡形もなく、綺麗さっぱり更地になって看板が立っていた。思っていたより、だいぶ狭かった。