猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた

遅れてきた探偵

男は言った。「なぜ事件を解決した、ちょろい俺の仕事を横取りしやがって、お前はもっと無能であるべきだったのだ」
彼は探偵だった。探偵には探偵の流儀があり、その流儀を相手に押し付ける実力もあった。腹パンチされ私はその場に蹲った。暴力も得意な探偵なのだった。
「はっきり言っておくが。お前の推理は完璧というには、ほど遠かった。確かに犯人は捕縛され、事件は解決した。が。それは中途半端なものだった。理解しているか。お前はトリックを暴きはしたが犯人の衝動を無視した。ゆえに犯人の述べた動機、荒唐無稽な与太話が無傷で丸ごと記録された。理解しろ。いっそ、お前は何もしない方が良かった。素人が」
私は地べたから探偵を見上げた。探偵の言うことは尤もな事なのかもしれない。でも、その話しを聞かされるために腹パンチは必要だったのか。さっぱり分からなかった。初対面の人間を相手に。いきなり腹パンチ。殺しも出来る犯人と、腹パンチも出来る探偵は共に理解しがたい。きっと彼らは同じ地平にいるのだ。両者が相争う平面で、私は場違いだった。どうでもいい事だが。
……本当に、どうでもいい……
思えば、それが私の口癖だった。あの孤島でも、それ以前からも。ずっと、そう言っていた。……どうでもいい……が我が魂に刻印された印だった。けれど、この「どうでもいい」は「どうでもいい」とは言えないものを、強調するための地のようなものだった。それは愛。少なくとも私にとってあの事件は、「どうでもいい」とは言えないものを押し出すものだった。愛の凸版印刷!愛する者のために、あの場違いな事件に私も関わった。多少の不手際や不完全性があったとして。素人と罵られても。それこそ、どうでもいい事なのだが。
口にはしなかった。分かりあっているらしい犯人と探偵。彼らにとっては挨拶のようなものだとしても、また殴られてはかなわない。