猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた

訪問者は帰ったが彼は落ち着かず、小説の続きを書く気分にはなれなかった。翌日も来客の影は残っており、シャワーを浴びても料理をしても散歩をしても影が立ち去る事はなかった。作家生命は風前の灯。言葉に出来ないし、したくもない影を殺す話を書かねば。
訪問者の影は消えず、不死身だった。殴っても斬っても絞めても沈めても、平気。毒を盛ってからは、なぜか一緒にお茶を飲むようになった。原稿は雪原のよう。何時までも、その白さを誇っていた。
そんな夜、影の呻き声に目を覚ました。弱点を見定めるべく、そっとドアを開くと、影は机に向かい唸っていた。原稿の白さを威嚇するごとく。ああ、影の黒さはインクのそれだったのか。と思った。
 
「暗い嵐の夜だった」……ビーグル犬の書いた新作を私は読んでいた。ノベルAIを自ら動く躯体に入れるのが、最近の流行なのだが。キーボードを叩く超マイペースな横顔を眺め、私は思った。アルマジロでも良かったな。
 
ついに小人さんを捕獲した。物音がしてドアを開けると、ひっくり返った花瓶の中に、囚われている小さいヤツを見つけただけだが。キャラメルで懐柔し、長年の疑問を問い質した。なぜ庭に穴を掘る。小人さんは答えた。趣味だ。
「足いたーい」と言ったら。小人さん達がやってきてマッサージしてくれた。……となればいいと思うのだが。我が家の小人達ときたら、怪しげな注射器は用意するわ、ノコギリを持ってくるわで。油断がならない。
 
夜に起きた女は、鏡の前に立つと拳を突き出した。鏡と結婚は人を増やすゆえに忌まわしい。放射線状にひび割れた世界は、蜘蛛の巣のようだった。中心には指輪があった。百年後、彼女は剣の女王と呼ばれる。
 
秋の海岸に花嫁が現れるのは、写真撮影のためだった。近くのホテルからスタッフと一緒に小型のバスに乗ってくるのだ。砂浜には遊泳禁止の看板が立っているが。水着で遊んでいる子供もいる。子供も花嫁を見る。手を振ると、花嫁も手を振り返す。
 
蟻の行列を見下ろし、演説をした。暑い、我々はフライパンの上の卵か、太陽は調子にのりすぎだ。……ここで木漏れ日の拍手……だが灼熱の圧政も長くは続かぬ。今は空に聳える城も、やがては砂にかえる。ハッキリと言っておく。風が吹くのは、二百十日
 
井戸に底に住む蛙婆さんは物知りだった。空の深さ以外にも、芸能スポーツ経済、宮廷の裏話まで。色々な人が井戸に向かって話すからなのだった。絶対に秘密の内緒の話だ。蛙婆さんは頷くだけだったが。彼女がその気になればドミノを倒すように、王政を転覆させるのも容易い事だった。
 
塩抜きしたお魚のように。可哀想な子ね、と言われたので。ありがとうございます、と答えた。こんな私の事まで気遣ってくださって、ありがとうございます。こう話してお互いに何の悪意も、皮肉もないのだった。
 
お腹が空いたので友人に電話をした。「元気?ところでオオコウモリって知ってる?へえ。うん。それだけ」こう電話すると、気のいい友人は考える。いったい何事?解せぬ。もやもやした友人は訪問を決意。ワインとパンと缶詰を持って、この部屋をノックするはずだ。10分の6ほどの確率で。
 
霧の中で天使をスケッチするのは難しい。白い画用紙に白い色鉛筆で牛乳を描くような難しさだ。力むと紙は凹む。そうして出来た幾重もの力の痕跡は可能性には開かれており、何かの形に見えないこともない。が。「ぜんぜん似てない」と言われた。
 
硝子のぶつかる高い音が聞こえた。朝靄の白い世界、自転車を漕いで牛乳屋さんはやってくる。寝返りをうち、ぼんやり。何か間違ってる気がした。また高い音が響き、分かった。資源ごみの日だ。起きねば。
 
母の日記を見つけた。それはネットで公開されていた。日記の中の母は、私の知っている母とは少し違った。まあ、若い。文末には「……と日記には書いておこう」という一文が何時もついていた。あと徳川家康への、こだわりが凄かった。
 
尾花の中。古戦場でも有名な※※ヶ原を分隊は横切っていた。新兵達は立ち止まった。上空、概ね7メートル、丸い月の下に白い服の女が浮かんでいたからだ。班長は新兵達を見た。各自、状況を述べようとするのだが言葉が出てこない。班長は言った。「その場にて腕立て伏せ。筋肉は裏切らなーい」