猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた「スパイダーマンGo!Go!」

ハロウィンの夜。通りは仮装した人々でいっぱい。ドラッグストアの店内ではワインもふるまわれ、ダウンタウンは夢心地。不信心な熱気に包まれ、お巡りさんの持ったピストルだけがリアルな光を放っておりました。そんな喧噪から、ひとつの影が離れていきました。彼はスパイダーマン──のコスチュームを着た変な人でした。スパイダーマンは駆け抜けます。サッ、サッ、サッ。なんて軽い足どり。この日のためにビリーズブートキャンプにも耐えたスパイダーマンなのでした。町はずれ。見上げたのは古びた二階家でした。月に照らされた庭は少し荒れています。スパイダーマンはこの家に住む未亡人に今夜こそプロポーズをして、長すぎた春を終わらせる決心をしてきたのでした。彼的には凄い勇気です。でもあまりシリアスになるもの考えものだぞ。跪きリングを贈るなら、できるだけ何気なく自然にだ。そのためにこそ、このスパイダーマンの姿は役に立つ!──となぜだか彼は考えていたのでした。
スパイダーマンは意を決し、チャイムを鳴らしました。玄関にはカボチャのランタンが五つ、ぼんやりと灯っておりました。ランタンからのびた電気のコードが、ドアのすき間を通り家の中へと続いています。スパイダーマンはもう一度チャイムを鳴らしました。でも返事はありません。ドアを開き体を半分だけ入れてスパイダーマンは呼びかけました。
「こんばんわー」
ドビュッシー が聞こえてきました。曲名は知らないけどその調べを聞くたび、変なの、とスパイダーマンは思うのでした。変な気分のまま家に入り、階段を見上げました。誘われるようにして軋む階段にのぼると。バスルームがあって奥が寝室でした。ゴクリ、とスパイダーマンは唾を飲みこみました。凄くヤバイよ、ヤバイよ、と思いつつ、そのドアノブに手をかけました。 
部屋の中にはベットがあって、脱ぎ捨てられたドレスがありました。その横にはキャットウーマンが立っていて、引き出しからあわてて取り出したらしい32口径がこちらに向けられておりました。スパイダーマンは叫びました。
「アイム、スパイダーマンキャットウーマン。いやリリィさん、指輪を届けにきました。ぼくは今夜。ハロウィンです!」
幸いにも銃口が火を吹くことはありませんでした。駆け足で話の顛末を語れば。リリィさんの部屋のクローゼットにはバットマンの衣装が下がっていて、スパイダーマンはそれに着替えたのでした。彼らの娘がキャットウーマンバットマンのキスするシーンを目撃し、トラウマにしちゃうのは10年後のことになります。