猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた

雑踏で振り返った。彼女の香りだった。彼女と過ごした記憶が洪水のように押し寄せてきて、胸がいっぱいになった。ひとつだけ分からない。なぜ彼女は、男性向けの香水を使っていたのか。おっさんの姿をふり返るたび、考えてしまう。
 
ぼくは手袋を男に投げつけた。相手も手袋を投げ返してきた。決闘だ。ぼくはさらに手袋を手にとり、相手も手袋を投げつづけ。叫び。顔まっ赤。ウラー!なぜか手袋は無限にあるのだった。
 
秋の終わり。魍魎が跋扈するという夜。蝋燭の明かりの中で林檎をかじった。心静かに鏡を覗けば未来の伴侶が見えるという。目を開くと彼の姿が見えた。うれしい。だが、よく見ると、彼の手には包丁が。思わず振り返ると彼の姿は消えていた。これで、よかったのだ。振り返えったから、行ったおまじないは無効だ。
 
彼女は美少女だった。でも、化粧を落とすと見えなくなった。文字通り、百パーセント、濁り気なしの、ピュアに、美肌の、透明だったから。
 
図書館に行き。本は読まずに、いかにして読書家ぶるか、工夫する話を読んだ。読まない読書家の本を閉じて、ノートを開いた。ずっとペンネームを考えていた。まぶしい空白の広がりに、木漏れ日がゆれた。未来に書かれるだろう大傑作に相応しい名だった。作品のない作家の誕生だった。
 
歌って踊れる作家をぼくは目指していた。お尻だって、ふりふりしちゃうけど。返ってくるのは、いつもの静けさだ。虚しい空に、ため息がもれる。もれた息が幾重にも木霊して。怖くなる。結局、ぼく自身の欲望が試されているのかも。わが愛読者はほぼ全員、巡回中のAIさんだった。
 
自転車をおりて白樺林を君と歩いた。蝉が鳴いていて、なにも話せなかった。渦巻くようだった。時間のない蝉は命がけ、はやく交尾しなきゃ、と鳴いているのだ。ぼくはいえば、この白樺の小道が永遠に続けばいい、と思っていた。