猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた (月が綺麗ですね)

最近、月は調子にのっていた。器量が良くて慎み深く、くわえて賢い愛の伝達者なのだった。三美神を足して三で割らない、ひと柱って感じ。今夜もまた、地上では
こんな囁きが木霊してた。
「月が綺麗ですね」
 
街の明かりが灯りだす頃。丘の上の公園のベンチに、我々は並んで座っていた。横を向くと彼は携帯を取り出していて、見るなよ、と言われた。しばらくして「月が綺麗ですね」というメールがきた。
 
彼女の顔と空は同時に曇った。今にも降り出すだすのではないか、と気が気ではない。どうか泣かないで。お願いだから。と念じた、ぼくは知っている。雲の向こうには、まん丸なお月さまがいるって事を。笑って。
「月が綺麗ですね」
 
冬に出会い、春に喧嘩して、夏に死んだ、もと彼からのメールが十五夜に届いた。
「月が綺麗ですね」
きっと送信を予約してたメールだろう。
どこまでもマイペースなやつ。
 
海岸沿いの道で。月が綺麗ですね、と言われて思い出した。
日付を指定して、きっと曇らせてみせる、と言った魔法使いがいたことを。その夜が曇っていたならば、苦い涙を飲んでいる私を思い出せ。そうだ、今月の今夜だった。月は煌々と輝いていた。
 
 
世界一のシャン。シャンというのは島の言葉で美人という意味なのだが、世界一のシャンと呼ぶと彼女は怒る。事実と違う、ウソをつくな、と。この島でもウソつきに良い意味はあまりなくて、ぼくは黙ってしまう。異国の人に相談したら、月を褒めることをすすめめられた。何かの呪文らしい。夜になったら、彼女にいってみよう。
月がきれいですね」
 
月の下で別れを告げられようとしていた。私は可哀想ではあっても可愛くはなかったから。仕方ないな、って思った。私の可哀想を癒すには一生を賭けてもらわねば、かもだし。今はただ、こうして隣あって歩いてくれる事に感謝したい。考えると少し可笑しい。ふたりして、月だけは褒めまいと思ってるのだ。
 
月が見えるレストランで、僕らは食事をした。ワインを飲んで、彼女を見た。彼女も僕を見ていた。この睨めっこだけには負けられない。彼女の深い瞳に向かって、ぼくは言った。
「月が綺麗ですね」
「うん。でも、それは。お月さまに向かって言った方が、いいと思うよ」