猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話を書いた

 
通りに面した二階に物静かな読書家が住んでいた。時々、読書家は目頭を押さえると立ち上がり、窓を開けて通りを見下ろした。物売りたちの声は面白かった。飴屋に金魚売り、竿竹屋に風鈴売り、焼き芋屋に小指売り。耳障りな声がすることもあるが。読書家はそっと窓を締めて、また本を読み始めるのだった。
 
すごいむかし、美しい国がありました。大輪の花のような国でした。その香りを遠くに嗅ぐだけで、千年ぶんの幸福でした。人々は花の国を語り継ぎました。むかし、といえば花の国の時代のことを指すほどでした。いつの時代の年寄りも、むかしは良かった、という理由です。往年、祖母がそう言ってました。
 
彼とケンカすると悲しくなる。でも一人になる時間も私には必要だった。土手を歩いて夕日に燃える花を見て、彼と一緒だったらと考えた。大丈夫。彼は待っていてくれる。こんな時のために毎日、ささやいておいたのだ。怒っても、きっと仲直りしに帰るから、遠くには行かないでね、と。
 
彼は無害な書き手だった。小石のような話を書いていた。それは池に投げても波紋を起こさない小石だった。水面を見つめ思った。不思議だ。まるで存在しないかようだ。その時、蛙が池に飛び込んだ。危ういところだった。
 
計器を担いで山に入り、地面に電極をさして歩くバイトをしていた。温泉を探しているらしい。間違ってお母さん大蛇を起こしてしまい、ぐるぐる巻きにされた。おかえり、と大蛇は言った。その目には、とても長い物語が映っているらしかった。丸呑みされて、私の物語も消化されてしまうようだった。
 
二人して夕日に染まりながら、海沿いの公園を歩いた。なんのオブジェなのかは知らないサイコロの形をした石が置かれていた。彼は私を抱き上げると、その石の上に座らせた。
「ごめん。何度も言ってるけど。俺は、男が好き。なのに君は、どんどん女の子になっていくね」
 
十月がくると同時にクマは畑に行き、南瓜を新聞紙の上に置くと中身をくり抜いた。目を穿ち、口にはノコギリ状の歯を尖らせ、中に蝋燭を置いて辛抱強く日暮れを待ち、ランタンに灯をともしてからは、月の明るさに不平を述べるのだった。早く作りすぎた南瓜お化けは、三日目に口を閉じた。クマ曰く。「ふむ、次はもう少し口を小さくしよう」
 
畑で収穫された私の頭にナイフが刺さった。切り込みが入り、フタが開けられる。侵入してきた手が臓物を引き出し、ゴミ箱に捨てた。おなかにも二つ穴がうがたれ、ジグザグにも切られた。夜がきて、空洞な私の中のロウソクが灯された。通りには多くのオレンジ色がぼんやり光っていた。やがて小鬼たちが列をなし、歩いてきた。“Trick or Treat”
 
ランタンのともる住宅街を、口の悪い魔女の手をひいて歩いていた。
「さっきの車が突っ込んできたら、おまえは死んでいたな、大きな車だったから、お墓二コぶんも死んでいただろう」
私は思った。その場合は、おまえも死んでいただろう、小さな魔女だから、お墓七コぶんも死んでいた。泣き出されても困るから、お墓の正しい数え方を教えるだけにした。
 
ハロウィンの夜。電車に乗ったら神父にお説教をされた。「おお※※※ しんでしまうとは情けない!」三つ目の駅で降りて、星を指差す銅像の前で三角帽子の魔女と出会った。「えーっとミイラ男?」と聞かれたけど、ぼくは答えなかった。透明人間は理解されない。