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こんな話を考えてた 「悪魔タクシー」

悪魔タクシー
 
その夜、クマ吉はとても腹を立てていた。彼の怒りは降りかかる雨さえ蒸発させ、ゆきかうタクシーも遠ざけているようだった。駅から10分ほど歩いたところで、やっとタクシーを捕まえることができた。クマ吉は、どさりとシートに腰を降ろすと行き先だけを告げ、むっつりと窓の外の景色に目をやった。気さくなことだけが取り柄だ、とでもいうような運転手は天気を話をはじめた。それからどこも不景気ですねぇ、という話をして彼の良く出来た娘の話になったとき、とうとうクマ吉の中のなにかが弾けた。クマ吉は言った。
「ところで君、悪魔もタクシーに乗るだろうか」
運転手は、しばらく考えこみ、さあ、どうでしょうね、と答えた。
「乗るわけきゃ、ねーだろ」とクマ吉は強い口調で断言した。
「よいかね、まあ、黙って聞きたまえ、悪魔はタクシーに乗らない。その理由は形而上学的なものだが、とてもハッキリしている。悪魔とて悪魔だ。悪魔には悪魔の本質があり、それを失えばもはや、もはや悪魔とは呼べなくなる、という一線がある。三角に角をもうひとつ足せば、それはもう四角であり、三角とは呼べない、そんなことだ。そして、私の神学的考察によれば、悪魔は悪魔である限りにおいて、タクシーには乗らないのだ、分かるかね!」
さぁ、あっしには分かりかねます、と運転手は答えた。クマ吉は、ふん、と鼻をならし、話をつづけた。
「まあ、マニアックな話であるから、きみは分からんでもよろしい。よろしくないのは、自分からこの設問を投げかけながら、あなたにとっての悪魔はそうなのでしょう、という無礼者だ。なにが、あなたにとっての悪魔だ、これではまるで私の妄想の内容が問題のようではないか、そんな話はしてない。まったく、ふざけやがって、あんちくしょう。チャンスとみればオレを病院に閉じ込めてやる、って目をしやがって。マジにそう考えてやがるんだな。おっと、そうはいくものか、わたしは冷静ですよ、とるに足らない問題を執拗にいいつのる偏執狂などではない、しかしながら、悪魔はタクシーには乗らないであろう、と吾人は断ずる」
人気のない峠にさしかかり、車は停まった。まあ、まあ、お客さん、ちょっくら、外の空気でにもあたって、頭を冷やしましょうや、と運転手はいった。クマ吉の額に血管が浮かび上がりピクピクと動いた。運転手は率先して車から下りて、ウーンっと背伸びをした。いつしか雨は上がり、低く走る雲の向こうに丸い月さえみえた。その月を眺めつつ運転手はいった。
「お客さん、まあ、無学なあたしにはうまく云えませんが、いろんな悪魔がいるんじゃないでしょうか。ひとの想像の及びもつかないのが悪魔さんで、本当に色々な悪魔がいるのなら、その中にはタクシー好きの悪魔のいるんじゃねーでしょうかね。その方が、あたしは嬉しいな、あははは」
背後に足音を聞き、運転手はふりかえった。そこには、ギロリと目を見開いたクマ吉がいた。手には、おおきな石を持っていた。
「ふざんけんな、バカ、悪魔はタクシーには乗らないったら、乗らないんだよ!」
月光の下、運転手に馬なりになり、石をドラムのように打ちつけるクマ吉がいた。地面に映るその影のクマ吉のお尻のあたりからは、尖った尻尾ようなものが伸び、楽しそうに跳ねていた。

これもh:keyword:短編 に書いた話。 2009-07-13 のことだそうだ。へー。