猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

こんな話かいた

握手

玄関には絵が飾ってある。灰色のどこか不気味に見える拙い油絵だが、確かに伝わるものもある。つまりこの絵を描いた不器用な者がいて、彼は一風変わってるってことだ。作者は学生時代の私で、理由があってこの絵は飾られている。あれはひと月ほど前。

神様の方からいらっしゃったセールスマンの話を私は聞かされていた。延々と。それこそ煉獄の炎をじっと見つめているような時間だった。思い切って、用事がありますので、と私は言い切り上げあげようとした。セールスの方もやや残念そうに、そうですか、っていい。やれやれやっと終わったと思っていたところで突然、手が差し伸べられたのだった。

にこにこ笑顔で握手をしましょう、ってことらしい。私は戸惑った。押しの強い相手のペースにまた嵌りそうで。その手を払いのけたかったが。握手を断るってどんな意味を持つのだろう、って考えると訳も分からず顔がこわばった。握手は嫌いなんです、と言うのは無作法なことだろうか。握手ってなんだろう。仲良くしましょうってこと?今日は縁がありませんでしたが親愛に変わりはありませんよ、貴方は少しだけ気難しい方のようですが気にしてません、とか?衝動的に私は語りだした。
失礼、この手はなんでしょう、握手という習慣に私は慣れておりません、握力の強い方が上とか、弱々しい握手は信用ならぬ、ってな事はありませんよね。うんぬんかんぬん。片手を突き出した方は、どこまでも笑顔だ。これでは私の方が考え過ぎ。っていうか、おかしな人だろう。端からみれば。でもこうした時に握手するのは一般的なことだろうか。なんで、いきなり?って私の抗議にも一理あるはず、と思いたいが。握手嫌いをうまく合理化できず、握手を求めて突き出された手に気圧され、頭を掻き毟る自分がいるのも確かなのだった。

握手の意味などどうでもいい。突然やってくる握手からいかに逃れるか考え、次の機会にはこう言おうと決めたのだ。
「ごめんなさい。絵を描いておりまして、利き手を他人にあずけることは遠慮しているのです。ええ、絵描きにとって手は繊細なものですからね」