猛烈な勢いでメモ ダッシュ

推敲してます。漫画とか。俳句とか。

短い話

こんな話かいた

屈強パン屋は人気の店で、行列が出来る。行列は垂直に並ぶ。 後からきた者が、前にいた者を肩に担ぐのだ。縦に10人。 その高さに屈強パン屋の親父はいて、ホイと屈強パンを手渡す。 パンを受け取った客は、9人ぶんの高さからジャンプ! 次の客が前の9人…

こんな話しかいた

大切にしたい名前についていえば、少し秘密にしたくなる。その名があまり礼儀正しくない連中の口にのぼり、手垢にまみれるのを見るのは、いささか。流れにかかる橋を渡り。大切な本なら、胸に抱いていくがいい。 だけど、これには異論もある。他ならぬ、その…

こんな話かいた

ときどき、降る雨も本のようだ。見えない手が雨の頁を繰ると青空で、飛び立った鳥の声が聞こえた。通りには本のような扉が並び、待ち合わせていた彼は扉のような本を手にしているが。じつは、その本が私で開かれるのを待っていたり。 もし犬を飼えるならな、…

こんな話かいた

頭が重いと思って鏡を覗くと、頭の上に墓石が立っていた。お坊さんがお経を唱えにくる。線香を焚く者もいる。お供えの花が枯れる、蚊がわく、いいことなしだ。だが一番、腹がたったのは肝試しにくる連中だ。頭にきて墓石を投げ捨てたら、木の芽が出ていた。…

こんな話をかいた

帰り道、また相合傘で歩いた。雨が降るたび、お寺の裏の手の所で二人になってしまうのだ。バス通りをとぼとぼ歩いて、約八百メートル。神社の前で、ふっと消えてしまう。こだわりのない方なのかもしれない。 目を覚ますと、見知らぬ鹿が添い寝をしていた。私…

こんな話かいた

雲も、ため息をつく。生まれては、ため息。消え失せるときも、ため息。このため息は軽く、上に溜り、空は紺碧に染まった。吐息はごく淡く、青いのだ。 旅はあまりにも楽しいので、ゆっくりと行きたいものだ。せっかちなのは足、心臓が後につづく。引かれた髪…

こんな話をかいた

急に暗くなった通りに、激しい雨が降り始めた。上空に雲の城がきているのだ。稲妻は街ぜんぶを照らすフラッシュ。雨がやむと、すべてが嘘のよう。傾き始めた日の光に道も車もビルもぴかぴかして、すごく眩しい。 眩しさの中で犬が溶けていた。車も溶けて、ス…

こんな話をかいた

星も生まれて、老いて、死ぬ。食べられることもある。星喰鳥はその一生に千個ほどの星を食べる。 船乗りの話だった。蟹座星域での蟹漁は危険なもので、漁の期間は3日と限られている。でも漁場は遠く、片道3ヶ月ほどかかる。実入りはいいのだが。蟹漁の漁師…

こんな話かいた

双子の姉は、ときどき寝ぼける。 その夜も寝ぼけ、階段をのぼり窓に向かって怒鳴りだした。 「コロス、コロス、コロス」と。 翌朝には綺麗に忘れていたが、私は考えてしまうのだ。 あの言葉は窓の外に向けられていたのか。 それとも窓硝子に映る自分に言って…

こんな話かいた

道に迷い歩道橋の下で道を尋ねた。老婆は地図を描こうといい、私の手のとった。黒いマジックで運命線をなぞり、これが道、生命線をなぞり、これが川、という具合に説明してくれた。目的地は結婚線の端あたり。ここの地形と私の手相はほぼ相似であるらしかっ…

こんな話かいた

理不尽な編集者は理不尽な駄目だしをする。……「はい、書き直し!」……理由は示されない。作家は走らされる。だが無駄な走りなんかない。作家は、鮫や自転車や氷上のランナーと同じ。止まれば死ぬ。走り続けることだけが生き残る道だ。走れ、走れ。 作家の顔に…

こんな話かいた 

波打つ草原を海に向かって走った。雲の上をいく船は帆をいっぱいに張っている。ぼくの心臓も風力で動いてる。 珈琲屋からの帰り道、小さな王様を拾った。ポケットに入れて持ち帰り金魚鉢に入れて眺めた。王様は不機嫌そう。王様の目に私は映ってないようだっ…

こんな話かいた

夜の階段を降りる途中、白い影を見た。誰が活けたか知らない百合の白さが、風を呼び、カーテンを揺らし、月に照らされた中庭の亡霊をふり向かせ、目をそらし駆けだした足音が幼い、私か。 丘の上、寂寂たる廃墟に賑やかな一団がやってくる。カメラを構え、求…

こんな話かいた

「原稿なら出来ている」という先生の言葉を信じて、扉を開いた。「ここ、こここにね」と指さされたのは先生の頭。先生の頭へと続く、階段があるとは知らなかった。「傑作だよ、傑作!」って声がする。なんだか暗い。「手にとり読めば分かる。きっと君にも」 …

こんな話かいた

月を見ながらお酒を飲んでいたら、丸い者が部屋によじ登ってきて言った。「おっと、驚かないで、不審な者ではありません、私は月です」僕は丸い者を見て、空を見て、また丸い者を見た。「ああ、あれ、あれは影武者です」と丸い者はいい、テーブルのお酒をご…

こんな話

「図書館に行く」と言ったら、母が泣きだした。泣きながらサンドイッチを作り、泣きながらポットに紅茶を入れ、泣きながら父の形見だという短剣を手渡し、泣きながらこんな忠告をくれた。「靴は丈夫なものが良いけど、新しいのは靴ずれがするから、慣れるま…

書いてた

七夕の夜。プラネタリウムで、彼女と待ち合わせをした。彼女はこなかった。べつに平気。ひとりでも星は見れる。しかし毎年、この日は雨が降る。 病弱な私に、姉は植木鉢を持ってきた。鉢植えの世話は面倒だが、姉はときどき来るので捨てることも出来ず、水や…

こんな話かいてた!

夏。とおり雨のあと。小さな水たまりの上に、小さな雲がおきることがある。小さな雲は小さな渦を巻き、小さな嵐になる。愛好家たちは網で嵐を捕まえると、専用のコップの中に入れる。コップの中の嵐は、この地方の風物詩だ。 私は彼女が嫌い。嫌い、嫌い、嫌…

こんな話もかいてた

この季節になると人は高台に移る。地下からゾンビが沸いてでるからだ。街はゾンビでいっぱいになる。が。それもひとときのこと。長雨が、ゾンビを溶かし海に流す。そうしたら、また人は街にもどる。排水口の掃除をするためだ。 そいつは言った。 「雨が降る…

こんな話かいてた

青空の下。鯉のぼりがたなびいていた。風もないのに。……それで亡霊なのだと分かった。凪いだ空に優雅な泳ぎを見上げるのは楽しかった。けれど少し疑問。なぜ鯉はポールの先にとどまるのか。もっと遠く泳ぎ回ってくれてもいいのに。たとえば公団住宅の給水塔…

4月1日の午後に思いついた話

主人公は、とある人間嫌いの小説家。屋敷では猫を飼っている。たまに編集者が訪れ、原稿の話しをするが。天気の話しだけで帰る、ってことが続いている。 ある日。編集者が小説家を尋ねるとお茶のついでに、一冊の本を見せられる。自費出版されたものらしく、…

こんな話をかいた

わりと知られていないことですが、王様は美形でした。憂いを帯びた瞳、さらりと波うつ髪。その体は大理石の彫刻さながらでした。ですから。「王様は裸だ」という言葉は家臣全員またファン一同にとって、夢の終わりを告げる鐘のようにも響いたのでありました。…

とある人間観察

土曜の午後。ショッピングセンターの長椅子で帽子を目深に被り、ぼくは1人の学生を見ていた。彼も椅子に座っていた。脚を組み頬杖をついている。左の膝の上に右腕の肘を置き、右手で重そうな頭を支えている。その像に、もしタイトルをつけるなら。「怠惰・…

詩人の狼狽

言葉の狩人 ポエマーくまは よしない思いつきを ときどきメモしているのだった 温室の 戸をくぐる 秋の蝶 〇〇嫌いだ 激突して ポストをさらに赤く染めればいいのに むにゅ むにゅ むにゅ そうしたら さっと風が吹いて そのメモを飛ばし 開けた窓から外へと…

犯罪について語る

友だちの友だちの話なのだが 公園に置いてある椅子を 部屋に持ち帰ったひとがいたのだった デザインを気にいってか たんに椅子が必要だったのか ともかく えらい苦労をして 部屋に椅子を運びいれてみて 彼は気づいたのだった 大きすぎる と それで夜中にまた…

こんな話をかいた

人のいなくなった家は寂れる。雑草が茂り、窓ガラスは割られ、埃は層をなし、独特な虚無がはびこる。主を失った空白に家が病むからだ。空き家が霊を招いたとて、だれがそれを責められよう。 なんの不思議もない一頁だった。本はこの手の上にあり、文字数にし…

こんな話をかいた

金魚鉢が10口、送られてきた。母の考えはよく分からない。ともかく、水をはり部屋に並べてみた。そこに蝶が2頭、飛んできた。蝶たちは青い鳥を探している、という。ぼくは答えた。 「ごめん、この近所では見かけないな。金魚鉢なら、いっぱいあるんだけど…

こんな話をかいた

心臓を他人あげる、夢をみた。たぶん善意から、そんなサインをしたのだった。手術をして、心臓なしなのに自販機のコーヒーとか飲みはじめるのだった。ぼくの心臓はいまどこで脈を打っているだろう?って思った。白衣をきた人がきて……気になりますか?……って…

こんな話をかいた

朝、台所で髪を切ってもらった。私はシーツまいて、てるてる坊主。鋏をもった君はなぜか楽しそうに「綺麗な髪なのだから、手入れすればいいのに」と言い、ありがとう、と言うかわりに私も笑った。共同の中庭には蔓草の影がさし、誰かが植えたハーブの傍らを…

こんな話かいた

彼女は揮発性が強く、蒸発した彼女を集めなおすには、特別な環境と時間が必要になる。取り扱いには注意。ぼくが一番の専門家だ、と自負しているが。